『“人のためになることをしないと早く死ぬで”をみんなの常識にしたい』|あんしんすこやかセンター永田智子

『“人のためになることをしないと早く死ぬで”をみんなの常識にしたい』|あんしんすこやかセンター永田智子

神戸市では、地域包括支援センター(注)のことを、あんしんすこやかセンター(通称あんすこ)と言います。「あんすこ」とは、高齢者が暮らしやすいまちにするために、高齢者の介護の相談業務などを行い、神戸市では中学校区ごとにあります。

下町情緒のあふれる神戸市長田区の地域にがっつり入り、仕事とプライベートが混じりながら、高齢者のために頑張っている「あんすこ」の管理者の永田さんに、「あんすこ」の仕事のことや日々思っていることなど、いろいろなお話を聞きました。

あんすこの永田さん

高齢者の支援には日常のつながりが大切

━━「あんすこ」はどんなことをしているか教えてください!

永田さん:「あんすこ」では、あらゆる高齢者の相談にのっています。また、介護保険の相談や、医療機関につなぐこと、要介護認定の申請代行など、高齢者に関わる様々なことをしています。また、“近隣の人からあの人最近見かけなくなった”“一人暮らしが大変そう”“高齢者虐待かも”といった連絡を受けて、実際に見に行くこともしています。

━━どのような相談が多いのでしょうか?

永田さん:介護が必要になる一歩手前の高齢者や、自宅で暮らしている高齢者が多いです。認知症や病状が進み施設に入るようになると別の相談窓口になります。

━━困っていても相談にこない高齢者の方もいるのでは?

永田さん:たくさんいると思います。自ら相談に来る人はいいのですが、家にひとりで困っている高齢者などにどうアウトリーチ(支援が必要であるにもかかわらず届いていない人に対し、支援者が積極的に働きかけて、情報や支援を届けること)するかが大事だと思っています。いろんな人とつながり、協力してもらうことが大事です。あとは、家の前に座っている高齢者に話しかけることもしていますよ。

━━「あんすこ」の仕事は、地域とのつながりが重要そうですね。

永田さん:すごく大切です。民生委員や自治会の方から高齢者のことを教えてもらわないと、この仕事はうまくいきません。民生委員の方は日常の見守りをしていて、私たちはその情報を教えてもらい会いに行きます。

━━地域との関係はどうやって築いたのでしょうか?

永田さん:「あんすこです。よろしくお願いします」では、なかなか深い関係を築けない。信頼関係が必要です。私は、自腹で自治会のバス旅行に行き、餅つきに参加し、夏祭りの準備の手伝いなどをしながら、日常の関係性も大切にすることで、つながっていきました。みなさんのおかげです。

「やるべきことはした。だから仕方ない」と思えるように、ようやくなってきた

━━この仕事をする中で、大切にしていることはありますか?

永田さん:悪人正機(あくにんしょうき)っていう言葉です。私は、仏教徒でもなんでもないのですが、昔聞いたこの言葉が心に残っていて。意味は、悪人こそが救われなければならない。悪人は、その人の家族、暮らし、お金などの周りの環境が作る。その人に罪はなく、環境が悪かっただけ。だから、悪人こそが救われなければならないという言葉を、この仕事をしながら、そのとおりだと思うことが多いです。一人で困っている老人は、世捨て人だったり、昔悪いことをして家族に見捨てられた人だったり、逮捕歴がある人、口が悪く悪態ばかりつく人など、困った人たちが多いです。しかも、自分で救いを求めていない。こうした人を見つけて、なんとかしたい。はじめは拒否されるけど、拒否を超えていきたい。声なき声を拾いたいです。

━━なかなか実践できない考え方だと思います。なぜ、そこまでできるのですか?

永田さん:見つけてしまったら、ほっとけない。一種の正義感のようなものもあると思います。「あんすこ」の委託された業務では、そこまでしなくていい。だけど、地域も困っていて、本人もしんどい、だから行動をするのかな。

━━あんすこの活動によって、ゴミ屋敷が解決したと聞いたのですが。

永田さん:あるゴミ屋敷は5年かけてやっと解決しました。89歳だったおじいさんが今は94歳。おじいさんは施設に入っていて、ゴミだらけの家で、家の周りにもゴミがあって、近所の人も困っていて。本人は、施設から帰ってくる気はあったけど、恐らく帰ることはできない。おじいさんと話しては、どうしようかと悩む日々。家を壊そうか、どうしようかと心も揺れて、それに寄り添い続けました。ようやく納得してもらい、ゴミを捨て、家もぼろぼろだったので解体して。解体の決め手になったのは、解体後の空地を子どもたちと菜園にして、それが食育になるという未来の話ができたから。想いがあれば、なんとかなります。

地域の菜園、おさんぽ畑になりました。
モリモリ野菜が育っています。

━━昔から、今日お話いただいているような姿勢で働いていたのでしょうか?

永田さん:働いていて、しんどい時もたくさんありました。自分を責めるときもたくさんあって、葛藤もたくさんあった。でも、家族も他人も切って孤独になった意固地な高齢者が、ヘルパーさんや、病院の先生、地域の人などからの温かい言葉で変わっていき、生きる希望を持って暮らすようになるのを見るとやりがいになります。孤独死が続くとしんどいけど、「やるべきことはした。だから仕方ない」と思えるように、ようやくなってきたかな。

悪人正機の「悪人」にならない環境を作りたい

━━福祉は離職率が高いと聞きますが…

永田さん:福祉の現場の離職率は高いと思います。給料が安いのも原因の一つ。福祉で働く人は、心から優しい人が多いので、もう少しなんとかなれば…。

━━管理者である永田さんは、他の職員さんとはどのように関わっていますか?

永田さん:いい加減に仕事をしても面白くないと思っています。みんなで話し合いながら、楽しみながら、しんどさも共有するようにしています。あとは、とにかく褒めること。いい関係を作るには褒められることが大事です。

━━あんすこの仕事を通じて、どんなことを感じ、考えていますか?

永田さん:民生委員や自治会をされている方は元気な人が多いです。人の役に立つから元気になる。コロナによる自粛で、高齢者はあまり外に行けなくなり、役割を果たせない人が増え、かなり弱ってしまった人もいます。一方で、家族関係がいい人や友人がいる人など、誰かの顔が浮かぶような人は頑張れて、元気。誰にでも役割が必要だと感じます。

ほんと、人の役に立たないと死ぬで。人のために生きないと早く死ぬことをみんなの常識にしたい。元気で幸せそうな高齢者は、人のために何かしています。人生100年時代になり、60歳で退職した後も40年もあります。ボランティアやおせっかいなど、人のために行動することが、繋がりをつくり、自らの幸せにつながることをもっと知ってほしいな。

━━将来やってみたいことはありますか?

永田さん:自分の子どもが大きくなったら、子どもの貧困対策に関わりたいです。愛情に恵まれていない子ども、ご飯が食べられない子どももたくさんいる。子どもを救うことがしたくて、具体的には子ども食堂みたいな活動かな。悪人正機の言葉の「悪人」にならない環境を作りたいです。

━━私たちも人のためになることがしたいです。というか、永田さんの手伝いがしたいです!

永田さん:ぜひぜひ。ゴミ屋敷の片づけとかいっぱいあります。連絡しますね。

<感想>

永田さんとお話をしながら、人のための行動がつながりをつくり、それが自らの幸せにつながること、お金じゃない幸せのあり方があると気づきました。市の職員の私は、もっと現場を知らなければならないと思います。市役所の机の上ではわからないことだらけ。声も出せずに弱っている人がまちにはたくさんいて、その人を見つけ、その人に向けた施策をしなければならない。アウトリーチって、本当に大切。「拒否を超えていく」「声なき声を拾う」ということは、なかなかできることではないけど、それができる人になりたい。自分もいつか偏屈独居老人になるかもしれない。そのときは、ぜひ永田さんのような人に見つけてもらいたい。だから、今できる行動を。

(注)地域包括支援センター:介護保険法にもとづき、市町村が設置主体となり、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員等を 配置して、住民の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、地域の住民を包括的に支援することを目的とする施設。全国で5000か所以上が設置されている。

インタビューの様子 右から2人目が永田さん

インタビューは、神戸市長田区にある「清本の店」でおこないました。近くの長田港で水揚げされた新鮮な魚が食べれる、美味しくて素敵な店です。神戸沖で獲れた兵庫ブランドの穴子丼も有名。永田さんもおすすめ。

清本の店 
神戸市長田区二葉町8丁目1−1
営業時間:11:30〜13:30、17:00〜23:00 
休業日:不定休

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