2025年3月16日、神戸市兵庫区の中でもちょっと上の方(山手側)にあたる「平野らへん」で、平野らへんの人々が平野らへんの事を綴ったローカルなZINE(自習制作の小冊子)、「ひらのら」のお披露目会イベントが行われました。この冊子の制作にはウロウロ〜カルクルーが参加していることもあり、ふらりとお邪魔したところ、とても印象的な1日になったのでレポートをしてみようと思います。
平野でのらりくりZINEづくり


メイン会場のレンタルスペース「古民家わびすき」では、神戸や福井のローカルなZINEの販売、チャイやブラジル料理の出店がありました。そしてこの日のメインイベントは、平野らへんをまち歩きしながら、ひらのらのバラページが置かれたスポットを巡り、ページを拾って(関西弁では「ひらって」と読みます)集め、自分で製本して完成させる「のらりくらりZINEづくり」。平野のらへんを堪能しつつ、お土産にZINEがついてくるという画期的な企画です。ひらのらを普通に買うと1000円のところ、まち歩きに参加して自分で製本すると、なんと500円。何故かまち歩き込みの方が安い。何かが狂ってる(最高)。
ひらのらは、このまち歩き企画も念頭に、平野に縁がある人たちによる1ページ単位のエッセイを基本フォーマットにしており、ページをバラバラにするとフリーペーパーになるように作られています。そしてバラページを置いてくれるお店やZINEに参加した個人など、地域の様々な関係者のつながりができていることがこの企画のポイントだと思いました。そしてひらのらの売り上げは平野らへん地域の活動に使われる予定とのことです。小さな循環が生まれそうですね。
高低差が抜群に楽しい「あらいぐまコース」























11時から平野の西側「あらいぐまコース」を巡るまち歩きへ、わびすき留守番組のお見送りをうけて出発。案内は平野コープ農園を運営しているまこさんと、ひらのら制作発起人の川瀬さん。この日はあいにく雨が降ったり止んだりといった天候でしたが、雨の中のまち歩きも風情があっておつなものです。
住宅地から歩いて数分で秘境感漂う谷地に突入し、景色の急変に驚かされます。そして湊川のほとり佇む湊山温泉が出現。湊山温泉では様々なイベントが開催されたり、読書スペース「喫泉」が併設されているなど、都会に疲れたら癒されにきたいスポットです。ここでひらのらのファーストページをゲットできました。湊山温泉からほどなくして、角材で組まれたグリッドの外装が目をひくお店へ。2ページ目の獲得ポイント、革製品を扱うsosou.(麁相)さんでした。こちらでは革製品の販売だけでなく、ドリンクの提供もしており、店内でくつろぐこともできるようです。
傘をさしてゾロゾロと階段や路地を歩き、ぐいぐいと高度を上げていきます。この高低差が平野らしい良いところ。改装中のボロアパートを通り過ぎて、高台の古民家スペースあいこやに到着。この時はこども食堂の準備中にお邪魔しましたが、普段は生花教室もされているとのこと。とても趣きがある建物で、建具の細かいところなど、あちらこちらと気になります。さっき通り過ぎたボロアパートは谷文化住宅といって、廃墟化していたところを廃屋再生集団(廃屋ジャンキーとも)の廃屋グループが入手して再生中とのこと。あいこやと谷文化の間には竈門が置かれた共同スペース的な庭が造成されていました。いいご近所さんになりそうな予感。
あいこやから崖みたいな道を歩いてさらに高度を上げ、平野らへんの天上界、天王へ。崖を見上げると山上に寺院があり、ほぼチベット。ヤギを解き放ちたい。天王では知る人ぞ知る秘境カフェ、天王茶屋もひらのらスポット。まち歩きの時間がだいぶ押していたので、残念ながら玄関を覗いてページをひろうだけでしたが、ぜひまた。
天王茶屋で折り返して、石井方面へ。谷地ならではの高低差付きY字路(私の好物です)、崖に寄り添う細長い建物、切り通しから開けるパノラマの神戸、上から見下ろすと足がすくむ傾斜の階段「石井五十段」と見所が続きます。この辺りは神戸のまち歩きの中でもベストコースの一つではないでしょうか。石井五十段を通り過ぎて少し細い道を進むと、Cafe KAFUに辿り着きました。例によって時間の関係でページを貰うだけだったのが惜しい。KAFUから「く」の字の階段を降りて下界へ戻ります。
街中に目立つ樹木があると、ひらのらに「平野樹木ツアー」の記事を寄稿され、まち歩きにも参加していた本位田(ほんいでん)さんから生の解説が入ります。ひらのら/平野らへんの解像度が高まっていきます。平らな住宅地に戻ってくると湊川の左岸に、はまの医院が目に入ります。緑茶色のタイルと、さくらももこもしくはtupera tupera感のある面格子が素晴らしい。はまの医院通り過ぎて、石井橋を渡るとNATURE STUDIOに到着。NATURE STUDIOは廃校になった湊山小学校の校舎を活かした水族館などが入る複合施設です。ちゃんとした施設っぽいのですが、ここにもページが置いてありました。すぐ近くの平野ラーメンは、神戸餃子クラブ部長がおすすめのお店で、羽付き餃子がおいしいらしい。気になるお店がどんどん増えるぞ。
駆け足ながらも2時間弱で8箇所を巡り、気がつけば9枚36ページをに拾い集めてわびすきに帰還。よいまち歩きでした。そしてお腹が空いた。この日のわびすきにはブラジル料理が出店していて、ビーフストロガノフのブラジル版、ブラジルストノガノフをいただきました。ビーフじゃなくてチキンなのがブラジル版?美味しかったです。
ひらのらへんの文化の蠢きを感じる「いのししコース」


















午後は平野らへんの東側「いのししコース」のまち歩き。平野らへんに拠点を持つ廃屋ジャンキー集団廃屋グループの上野さんと清水さんがが案内してくれます。引き続き雨が降ったり止んだりしてる中ぞろぞろ出発。みんなしれっと通り過ぎたけど、わびすきのすぐ近くには六叉路があるので多叉路(たさろ)マニアは要チェックです。
平野商店街をぶらぶら。この辺りは福原京時代に平清盛の居所である雪見御所があったということで、キャラクターや銅像など清盛推しが目につきます。平野市場の入り口を発見、みんなで吸い込まれていきます。お店はほぼ閉まっていましたが、どんつきの店舗が取り壊されたことで、抜けが良い癒し空間になっていました。
いのししコースの最初のページ拾いスポットのネパールカレー屋さんkukuriはこの日お休みで空振り。しかし道すがらに、ムー(老舗オカルト雑誌)みのあるロゴがいけてるバブリーなアムス下祇園ビルや、誰もが気になる喫茶店ちゃっぷりんを発見できたので、まちあるき的には収穫ありありです。次のポイント、いちばぎゃらりぃ侑香もお休みでページ拾いに連続失敗。気を取り直して少し東へと足を伸ばし、喫茶店を改装して最近オープンした定食屋chubに向かいます。
山麓線沿いの街並みや野良アートを鑑賞しながらchubに到着、やっとファーストページゲットです。ここで気づいたのですが、あらいぐまコースといのししコースで拾えるページが被っている。どっちかに参加すればZINE作りはできるというよく考えられた企画でした。ということは、午前中にページを集めた私は、純粋にまち歩きをすれば良いのだ。
このまち歩きには、ひらのらにイラストを提供している、アーティストで「ワークショップ・ファンタジスタ」の二つ名を持つ田岡さんも参加されていました。この日の田岡さんは「ヒラノマンシールをつくろうキット」を携帯しており、どっかのスポットでワークショップをやるのかな?と思っていたのですが、なんと歩きながらワークを決行していて衝撃を受けました。おそらく世界唯一の「ながらワークショップ」が開催される場所、平野はすごいところやで…。そんなファンタスティックな光景を見つつ、五宮バス停前のHiTo Coffee Beansさんでページとコーヒーを補給、坂を登り廃屋グループの拠点、バイソン(梅村)を、目指します。
バイソンの手前で、薬膳と本のお店、ほとりさんにお邪魔できました。お話し会(イベント)中だったのでそーっと。こちらも最近オープンしたばかりのお店です。平野らへん、文化的だ。ほとりから徒歩30秒くらいでバイソンの入り口に到着。名前の由来は兵庫区梅元町の山際にある空き家(廃墟含む)をまとめて改修して村を作ってるから、「梅村」。シェアハウスや、アトリエ兼住居、ギャラリー、アーティストインレジデンスなどが並び、今も近隣の空き家を取り込みながら成長中です。ギャラリー2階(キッチンと同じレベルに脚立で登ってから階段で上がる謎構造)では、ライブラリーの開設に向けて準備中。敷地の奥には最高眺望の共同茶室もあります。
バイソンでは別行動をしていた、福井県大野町からやってきたZINEチーム「山の民」と離合(関西で「すれ違う」的な意味で使われる言葉。たぶん)して、する~っとわびすきに帰還。いよいよ拾い集めたZINEを綴じる時がやってきました。ページ番号はあえてふられていないので、ページ順は自由、ホチキスで中綴じにするスタンダードなやり方の他にも、針と糸で簡易に綴じる方法やミシンを使って糸綴じにする方法があり、「自分だけのひらのら」を作ることができます。綴じ方などをみんなで教え合いながら、もくもくと平野らへんから生まれた果実が出来上がってくる、代え難い時間/空間でした。