明舞団地でニュータウンを再発見する

明舞団地でニュータウンを再発見する

2025年11月、神戸市と明石市にまたがる明舞団地(正式名称:明石舞子団地)を歩いてきました。

今回歩いたのはこの辺り

最高のメンバーが揃ったかもしれない

案内人は元兵庫県住宅公社職員で明舞団地に関わって20年の神吉さん。現在は公社を退職され、明舞団地内でシェア型図書館「めいまい図書室」の運営されています。まさに明舞団地のエキスパートで心強い。

まちと団地に興味津々の我々に最高の案内をしてくれた神吉さん。

そして、ウロウロ〜カルクルーのツツイ(私)とワタナベの2人に加え、ゲストとして川瀬さんと未央さんにお声がけしました。川瀬さんは神戸市民の住まいのお困りごとを支援する「すまいるネット」で働かれており、団地住まいももちろん守備範囲です。未央さんは主に埼玉でマーケット(常設ではなく仮設で開催される一時的な市場)を媒介としたまちづくりを実践されてきました。この度、地元の神戸(らへん)に戻られたことを機に、「マーケットの学校 in Akashi-Maiko」など明舞団地での活動にも関わり始めています。団地好きのツツイとしては、今回のまち歩きにこの布陣で臨めることに胸が高鳴ります。

川瀬さん、ワタナベ、美央さん。少数精鋭でワイワイと団地巡り。

そもそも明舞団地(めいまいだんち)とは?

明舞団地は1960年代に兵庫県明石市と神戸市垂水区にまたがって開発されました。関西の千里ニュータウン、関東の多摩ニュータウンに比べれば規模は小さいものの、その後のニュータウンの礎となった先進団地です。

丘陵地を造成して建てられたため、街全体が緩やかな坂の上に広がり、中高層の公営住宅(UR・県営・公社)+戸建て住宅+商業施設が混在。 当初は若いサラリーマン世帯のベッドタウンとして人気でした。入居から約60年が経過し、高齢化と建物の老朽化が進行しており、 近年は 再生事業や建て替え、リノベーションが進められています。

中層団地(3~5階建)、高層団地、震災後の建て替え団地、給水塔、植栽など多様な団地景観が広がります。

愛ある団地再生プロジェクト

明舞団地内の狩口台住宅に、地域活性化クラウドファンディング「ハロー!RENOVATION」のプロジェクト​​「愛ある団地ファンド」により資金を集め、リノベーションを行った部屋があるということ。「ファンド」という名前のとおり、プロジェクトがうまくいけば出資者には配当金が発生する仕組み。という、神吉さんからの説明をふむふむと聞きながら団地内歩いていると、

神吉さん「それで、無事にそのリノベ物件が売れてファンドとしても成功したのですが、これからそちらのお部屋にお邪魔しようと思います。」

え?今お住まいになっているとお部屋を見せてもらえるんですか?なんと嬉しいサプライズ!

目の前の階段を4階まであがり、見学を快く受け入れていただいた香川さんのお宅へ。迎え入れてもらうと、レトロな団地の外観からは想像ができないスタイリッシュなお部屋で一同から歓声があがりました。

香川さんお気に入りというレトロな扉を開けると、コンクリート剥き出しの仕切り壁と白い壁に囲まれ、まるでギャラリーのような空間が。

香川さんはパートナーの方とお二人で、今年(2025年)の3月に同じ明舞団地内のUR賃貸から引っ越しをされました。持ち家への住み替えを考えていたところに、このリノベーションプロジェクトによる物件を知り、お二人の探していた条件にも合致、しかもよく知る団地内なので安心感もあり購入を決めたとのこと。

建物は築57年ですが、大規模改修で設備は更新されており、リノベーションの目玉である2重サッシ化により断熱が抜群。以前の部屋では冬の冷気と結露に悩まされていたということで、古い団地のデメリットを知っているからこそ、リノベーションの狙いが刺さったようです。また、静音性も高く「窓を閉めれば、すぐ隣の幼稚園が運動会をしてても声が聞こえなくなるんですよ」と香川さん。

団地暮らしの魅力を聞いてみると、生活に必要な施設は揃っているので、明舞から一歩も出なくても生活でき、さらにすぐ近くに海があり、おしゃれなリゾート感が生活のスパイスになるということです。また、中層団地でネックになりがちなエレベーターがないことについても「4階の階段までの上り下りを毎日しているので、ジムに行くよりも健康的と思います。」とポジティブに捉えておられました。

先日、お部屋に団地の知人などを招いてホームパーティを開いたそうですが、こういった団地内の付き合いを楽しめているのも、神吉さんがが運営されている、めいまい図書室での交流が大きいとおっしゃていました。明舞団地の魅力を知って、若い人にも入ってきて欲しいという思いもあるようです。

団地暮らしの楽しさをお話ししてくれた香川さん。外気温と室内気温を測り断熱効果を確認してはにんまりしているらしい。
さりげなく置かれた食器も展示された作品のようでした。団地的陰翳礼讃。
香川さんは依頼をうけてペットの写真を水彩画の作品にされています。単なる受注仕事ではなくて、思いの交換になるのが魅力とおっしゃられていました。
近くのヤマダストアーで購入した大きな葉の観葉植物。帰りに雨が降ってきて傘の代わりにしたそうです。ニュータウンのジブリだ。

香川さんたちの軽妙なやりとりを聞いていて、ほっこりさせてもらいました(ナイスコンビ)。終始この団地生活が楽しくてしょうがないといった雰囲気で、積極的に暮らしを楽しもうとする姿勢が印象に残りました。インスタグラムでも素敵な団地暮らしを発信されていますので、ぜひ覗いてみてください。

[余白のある団地暮らし] https://www.instagram.com/kagawa_kaduaki

サブセンター、高層住宅、パン処

狩口台住宅の素敵なリノベ団地暮らしの次は、団地内の北側へ移動。交差点の角地にモダニズム建築を彷彿とさせる松が丘サブセンターが現れました。サブセンターとは広大なニュータウン内で、日常的な買い物や生活サービスの利便性を担うために配置された、小規模な商業テナントゾーンです。しかしオールドニュータウンでは規模の中途半端さからか寂れがちな存在。ときには完全消失していたりします。松が丘サブセンターもほとんどシャッターが閉まり、理容室が一件営業するのみとなっていました。テナント上部に直書きされた「1日1回は松が丘ショップへ」の標語に「近隣住民の生活を支えるぞ」という往年の気概を感じます。それにしても、建物が圧倒的にかっこいい、ウロウロ〜カル有形文化財に認定しました。

サブセンターの道路を挟んで向かいには、兵庫県営明舞高層住宅がそびえ立っています。高層というだけあって14階建てで、なんと各部屋が2階建となっているメゾネットタイプの先鋭的な集合住宅。規則的な凹凸のある白い躯体とインダストリアルな赤茶色の階段室・エレベーター室の縦ラインがいかつい、強そう。同年代(1970年台後半)に建てられた芦屋浜高層(芦屋市)に似た雰囲気を感じるレトロフューチャー系の団地です。

高層団地の近くに素敵なパン屋さんがあるということで、団地の下を走る第二神明道路を連絡橋から鑑賞しながら裏にぐるっと回ると、巨大な団地の陰に隠れるように「パン処ととや」がありました。パン処ととやは10年前に空き家となっていた長屋の一室をリノベーションして開業されたそうです。私たちは12時前に訪れたのですが、すでに売り切れのパンも多く、近隣の方の胃袋をしっかりと掴んでいるのを感じました。残りの惣菜パンはほぼ私たちがさらえさせていただきました。残ってて良かった(買えなかった住民の方すいません)。

松が丘サブセンターは1階が店舗テナントのいわゆる「ゲタバキ住宅」。全体は緩いブーメラン型で、コンクリートの重厚さに加えて、テラスの角度、中央の階段室の上部などエッジが効いたデザイン。
〇〇の建築探訪的写真も撮れます。
排水溝に生えたかわいい緑を鑑賞する川瀬さん、美央さん、ワタナベ。さすがの目の付け所です。
シャッターが閉まったサブセンター。まちは計画通りにはいかないものです。通りの雰囲気もいいし可能性は感じるのですが。
シャープな明舞高層団地。メゾネットなので、エレベーターは入り口のある階にしか止まりません。
団地前の「赤ひろば」は第二神明道路の上に造成した人工地盤。そして団地内と思えぬ鬱蒼とした緑。巨大な人工物と自然のコントラストも団地の魅力ですね。
高層団地の裏には民間のテラスハウスが並ぶ路地がありました。この対比もすごい。
ぱん処ととやも路地をスッと入ったところに。
食パンモチーフの店内外に散りばめられていてかわいい。
どれも美味しそう…。大葉のタレ漬けサンドは私がラスト1をいただきました。

明舞団地名所続々

神吉さんが私たちが好きそうな場所に連れて行ってくれるということで、南多聞公園へ。歩道から公園と続く階段を登り、視界が開けると目の前に、丘陵地形を活かした15レーンの巨大なコンクリート滑り台が出現。思わず参加者全員から歓声が沸きました。この日は雨で滑れなかったのが残念過ぎるのでまた来ます。

続いて団地の中央あたり、松が丘公園に向かいました。松が丘公園内には「どうぶつこうえん」と呼ばれるエリアがあり、名前のとおり動物型のオブジェが設置されています。ただし「公園の動物型遊具」のイメージと全く違い、リアル過ぎる造形に衝撃を受けます。公園内の街路灯も擬木で作られていて、まるでテーマパーク。遊具としての機能はないので、公園として楽しいかはよく分かりませんが、明舞のフォトスポットなのは間違いないです。

ニュータウン開発時に、子どもたちがたくさん住むことを想定して、真剣に、気合を入れて団地の子どもが楽しく遊べる公園や遊具が作られたんだろうなと想像できます。その60年後、変わった趣味の大人たちがきゃっきゃと楽しんでいるとは思わなかったでしょう。

神吉さんは何があるとは言わずに、さりげなく案内してくれます。団地エンターテイナーだ。
階段を上りきるとドーンとこの光景。ほとんどダム。
どうぶつこうえんに入場。見よ、この躍動感。
こちらはほぼサファリパーク。
最近塗り直しされたようで像は謎にポップな色合いになっていました。
入口はちょっとサイケデリックな感じでインパクトある。

ここからバザール明舞のお肉屋さん「きくや食品」へ移動。バザール明舞は明舞団地の南部にあるゲタバキの商店街です。この商店街できくや食品さんは50年以上営業されているとのこと。コロッケなどをその場で揚げてくれるのですが、圧倒的な種類の豊富さで、ポテトサラダコロッケといった珍しいものもあり目移りしてしまいます。なんとか各自お昼のおかずを選んだところに「ここは焼き豚も美味しいんですよ」という神吉さんの囁き。全員が晩御飯に焼き豚を買って帰ることになりました。

バザール明舞はきくや食品の他にスナックや定食屋さんが入りつつ、空きテナントを利用して、まちづくりスペースやDIY活動を行っている明舞工作室も入居していました。明舞の中でも「動いている」商店街のようです。明石の人気タイ料理屋「タイのおうちごはん アロイナ」も現在の朝霧駅近くに移転する前はこの明舞バザールで営業されていたとのこと。明石の隠れたホットスポットかもしれません。

きくや食品はバザール明舞内でも一目して年季がすごい。そしてオレンジのライトがかわいい。
迷いに迷って買い過ぎました。
コロッケあがってきました!お腹がなる!

めいまい図書館と明舞団地のこれからを見たい

まち歩きの最後に、神吉さんが運営されているめいまい図書室で、お昼ご飯を食べながらお話しを聞かせてもらいました。めいまい図書室は、矢元台サブセンター内の10年以上空き家でスケルトン状態だった場所を改装して、ひとはこ図書室として2024年5月にオープンしました。

ひとはこ図書室とは、個人・法人が本棚の一箱分(1区画)の「一箱オーナー」となり自分の読んだ本やおすすめの本を貸し出しす仕組みです。静岡県焼津市の「みんなの図書館さんかく」が発祥で、現在全国に100を超えるみん図書が登録されています。https://sancacu.org/library

一箱オーナーは本を貸し出すだけでなく、図書室の店番をしたり、イベントを開催することができます。また、本棚を使って自分の活動をPRすることもでき、棚に並んだ本から人となりが滲み出ることで、利用者・オーナー間の交流が生まれやすくなるようです。

棚を借りているのは近隣の方が多いとのことで、定期的なオーナー交流会の他に、様々な講座やワークショップが行われています。9月に舞子で行われた「きららマルシェ」にはめいまい図書室として出店、たくさんのオーナーさん達が、それぞれ好きなこと、得意なことを活かした出品を行なったそうです。みんなでイベントに出ると仲が深まりますよね。今回お部屋を見せてくれた香川さんも一箱オーナーになっており「神吉さんのおかげで団地内の方とつながりができた」と言っていた意味がわかってきました。

一緒にまち歩きをした美央さん、実は団地で子育てした経験があり「団地での子育てはとても楽しかった!一軒家の住宅地よりもコミュニティが作りやすくて、生活に必要なインフラが揃っているし、何よりも、安全。歩車分離でまちが設計されているので、自動車の危険が少なくて安心できる。メリットに気付いていない人が多いと思う。」とのこと。なるほど、住んでみないと分からないけど、住んでいると当たり前過ぎて意識しないので、伝わらないのかもしれません。

長く団地再生事業に関わった兵庫県住宅共有公社を一昨年に退社された神吉さん。その後も実験的にまちに関わってみたいという思いもあり、めいまい図書館を始めたとのこと。
それぞれの本棚に個性がでておもしろい。
「きららマルシェ」出店時に、めいまい図書室を説明するために制作した写真ボード。

午前中からお昼までの短い時間で、明舞団地の「美味しいところ」をつまみ食いさせてもらい、お腹いっぱいになりました。60年前のニュータウンは当時の暮らし(を良くすること)への熱意や工夫が残るレガシーで、これからも人が住んでいく生きている場所だということを再発見しました。そして今回見せてもらったリノベーションの手法だけではなく、住棟の建て替えや、団地の廃止・取り壊しも進んでおり、これからも変化していくことは間違いないまちです。また今度明舞団地を訪れてウロウロしたら、さらなる発見がある予感がします。

オススメのお店情報
パン処ととや
兵庫県神戸市垂水区南多聞台1丁目7-14
営業時間:7時〜17時(土・日は15時まで)
定休日:火曜日
きくや食品
兵庫県明石市大蔵谷奥16-5
営業時間:10時〜19時
定休日:水曜日

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